断熱等級のさらなる引き上げにより、これまでのフィンランドのログハウスが建てられなくなります。
Will Log Homes Be Unbuildable in Japan by 2030? – Ep 1

「フィンランドのログハウスは暖かい」は誤解?
日本のログハウス市場では、正確な普及率を示す公的な統計は存在しませんが、原産国別のログ材シェアを見ると、フィンランド産が全体の4割以上を占めており、北欧デザインの美しさと機能性が多くの日本人に支持されていることが分かります。
フィンランドでは、厳しい寒冷地の気候に適した住まいとしてログハウスが広く普及しており、新築戸建て住宅の約5軒に1軒がログハウスであるというデータもあります。
しかしその背景には、厚さ200mmを超えるラミネートログや付加断熱(外断熱/内断熱)の採用により、高い断熱性能を担保しているからなのです。
一方、日本で流通しているフィンランド製ラミネートログの多くは最大でも134mm厚にとどまり、付加断熱を行わない仕様が主流です。そのため、2025年4月に施行された省エネ基準では、宮城・山形・福島・栃木・新潟・長野、さらに広島や岡山などの「地域4」に分類されるエリアでは、この厚さでは基準を満たせず建築が認められなくなりました。
つまり、134mm厚のログ壁だけで断熱をまかなうログハウスは、外気温の影響を非常に受けやすい構造だということです。
これからのログハウスづくりでは、より厚みのあるログ材の採用や、構造設計の見直し・断熱材の追加など、新しい断熱基準に対応した工夫が求められる時代に入っています。
*詳しい地域は以下の地図を参照
ラミネートログとは?

ラミネートログとは、薄く製材した板(ラミナ)を繊維方向を交互にしてイソシアネート系(ポリウレタン系)接着剤で圧着し、一本の角ログ状に成形した集成材のことです。無垢の丸太や角材とは異なり、工場で均一に乾燥・加工されるため、寸法の狂いが少なく、施工性が高いのが特徴です。
主にフィンランドや北欧諸国のログハウスで多く使われています。
ただしデメリットとして、湿度や熱によってイソシアネート接着層が劣化・剥離する恐れがあり、乾燥した北欧の気候では安定しますが、日本の高温多湿環境では経年劣化しやすい傾向にあります。
(F☆☆☆☆(JIS・JAS規格)を満たすレゾルシノール樹脂接着剤が推奨されます。)
2025年に引き上げられた断熱等級とは?
「断熱等級」とは、住宅がどれだけ熱を逃がしにくいかを示す性能指標です。
屋根・壁・床・窓など外気に接する部分すべての断熱性を平均して算出し、UA値(外皮平均熱貫流率)として評価します。
UA値が小さいほど断熱性能が高く、等級は1〜7の7段階に区分され、数字が大きいほど高性能となります。

また、日本全国は気候の違いにより「地域1~地域8」に区分されており、地域1が最も寒冷な北海道、地域8が最も温暖な沖縄を指します。これは各地域の外気温や日射量などに応じて区分設定されている為、中国地方の一部や東京都奥多摩なども「地域4」に分類されています。
2025年4月以降に着工する全ての新築住宅には、最低でも「等級4」の断熱性能を備えることが義務化された為、「地域1~4」に区分されたエリアでは、従来の厚さ134mmのラミネートログだけでは基準を満たせず、建築ができなくなっています。
2030年に向けた国の方針と背景
日本政府は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするという長期目標を掲げています。その中間目標として、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減、さらに50%削減に挑戦する方針が打ち出されました。
これを実現するために、省エネルギー住宅の普及が強く求められており、2030年には現行よりもさらに厳しい断熱等級5相当の性能が新築住宅の標準として求められる見通しです。
つまり、これからのログハウス建築では、木の魅力を生かしつつも、高断熱構造と環境性能を両立させる設計力が不可欠となっていきます。
「断熱等級5」に対応するログ厚(2030年見込み)
下のチャートは、壁をすべて無垢木材で構成した場合に必要とされる理論上の最小ログ厚(mm)を示したものです。木材の熱伝導率をλ=0.12 W/m·K、式 U=λ/t → t=λ/U で逆算した理論最小値となっています。推奨設計厚は15%の安全マージンを加えた厚みで計算しています。
■ 「断熱等級5」のチャート(2030年見込み)
| 地域 | UA (外皮平均熱貫流率) | 理論最小ログ厚 | 推奨設計厚 |
|---|---|---|---|
| 1(名寄) | 0.4 | 300 mm | 約345 mm |
| 2(札幌) | 0.4 | 300 mm | 約345 mm |
| 3(盛岡) | 0.5 | 240 mm | 約275 mm |
| 4(長野) | 0.6 | 200 mm | 約230 mm |
| 5(新潟) | 0.6 | 200 mm | 約230 mm |
| 6(東京) | 0.6 | 200 mm | 約230 mm |
| 7(宮崎) | 0.6 | 200 mm | 約230 mm |

■ 現行の「断熱等級4」のチャート(2025年4月~)
| 地域 | UA | 理論最小ログ厚 |
|---|---|---|
| 1(名寄) | 0.46 | 261 mm |
| 2(札幌) | 0.46 | 261 mm |
| 3(盛岡) | 0.56 | 214 mm |
| 4(長野) | 0.75 | 160 mm |
| 5(新潟) | 0.87 | 138 mm |
| 6(東京) | 0.87 | 138 mm |
| 7(宮崎) | 0.87 | 138 mm |
フィンランドでは人口密度が低く自然環境が豊かなため、202mmを超えるラミネートログや付加断熱を組み合わせ、厳しい寒冷地にも対応できる住宅が一般的です。
一方、日本で流通しているフィンランド製ログの多くは134mm以下しかなく、付加断熱を施すと室内空間が狭まり、コストも大幅に上昇します。
そのため、今後5年以内には現行仕様のフィンランドログハウスは、沖縄を除く国内で新築建築が極めて難しくなると考えられます。
では、2030年に予定されている断熱等級の引き上げ(等級4 → 等級5)を前に、どのようなメーカーやビルダーを選ぶべきなのでしょうか?
次の【中編】では、これからのフィンランドログハウス選びのポイントと、2030年を見据えた具体的な注意点について解説します。
公開予定日:2025年11月11日

